Mag-log in「お兄ちゃん!助けてー!」
「待ってろ!すぐ助ける!…くそっ、騎士団より悪魔が多すぎる…」 理由は分からないが突如現れた悪魔の大群は町に現れ、たくさんの人々を殺戮していた。 俺はちょうど騎士団の仕事でこの町にいたので仲間と共に悪魔に対抗していた。 大半の悪魔は倒したはずなのだがどういう訳か悪魔は増える一方でエバルフ達は苦戦していた。 その目の前には妹が悪魔に取り囲まれていた。 「エバルフさん!悪魔が多すぎて我々じゃとても…」 「くそっ、団長がいればいいんだが今あの人は他の任務だからな。どうすれば…」 エバルフが悩んでると妹を囲んでいた悪魔が妹を切り刻もうと爪を振り下ろしたその時。 グサッ… 何かが斬られた音がした。 これは妹が斬られた音ではなく、悪魔が斬られた音でその悪魔は斬られた背中を押さえながら倒れてしまった。 悪魔を斬ったのは黒いローブを身にまとっていて顔はフードを被っていたのでよく見えないがどことなくグレンに似ていた。 周りにいた悪魔は仲間が斬られた事によってこのローブの男を敵と判断した。 そして爪を伸ばして襲いかかった。 しかし、その男は目に見えない速さで悪魔を斬りまくっていった。 そして男が目で判断できる速さになった時には悪魔達の体から切り傷が出てきて血を吹き出しながら倒れた。 それを見たエバルフは妹が助かったと思ってホッとした。 「よかった。妹は無事に助かっ…」 エバルフは目の前の状況を理解するのに少し遅れたがそれに気づいた時彼は狂ったように発狂した。 「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」 そこには悪魔の死体の中に妹の死体まで混じっていたからだ。 「お気を確かに、エバルフさん!…なんて事を…」 横にいた部下の男はエバルフの妹を見てから黒いローブの男を睨みつけた。 黒いローブの男は悪魔と一緒に妹まで斬ったのだ。 しかし、謝罪もせずにその場を立ち去ろうとした。 「…待てよ。」 エバルフはうつむいているが地面につけた手からは怒りで震えているのがわかった。 立ち去ろうとするローブの男を呼び止めたると男は言った。 「…何を怒っている?俺の射程距離にコレがいただけだ。運が悪い。」 「な…に…」 「そんな睨むな。助けれなかったのはお前の弱さ以外何もない。」 その男は悪びれるどころかエバルフの弱さが原因とハッキリ言った。 エバルフはその男のイカれた発言に我慢できず、手元にあった剣でその男を斬りつけようとした。 しかし男はその剣をかわすとエバルフの首筋を手で叩きつけ、エバルフは地面に倒れた。 「弱いくせに人助けなんざ笑わせる。俺はお前みたいな弱いくせに守るとかほざく奴が大っ嫌いなんだよ。」 ローブの男はそのまま去ろうとするがエバルフの部下達は男の目の前に立ち塞がった。 「どけ、死にたくなかったらな。」 「どきません!さっきの言葉訂正して下さるまで…どきません!」 部下の1人が懸命になって言うが顔には涙と恐怖でブルブル震えているのが伝わってくる。 「はぁ、無理するな。そんな事しても悪魔祓いの俺に勝てるわけないだろ?」 ーそうだ、やめろ…お前達じゃ勝てな… 「勝てるか勝てないかじゃない!あなたは私たちの職業を…騎士団の誇りを侮辱した!訂正するまで絶対に許さないぞ!」 「…はぁ、そんなに死にたければ…今すぐ殺してやる。」 男はそう言って剣を抜き始めた。 「よせ…やめろ…やめろーーー!!」 その後、男はエバルフ以外の部下達を容赦なく殺した。 その時のエバルフには絶望しかなかった。 そして思った。 「許さない、悪魔祓い」 エバルフはその憎しみを全て強さに変え、3年後12騎士長の1人となった。 昔の純粋な夢を抱いたエバルフ・シュロンはもういない。 いるのは憎しみによって生きているエバルフ・シュロン。 そう、俺は強くならなきゃいけない。ならなきゃ誰も助けられないー 「…そうだ…強くならなければ…誰も守れない…」 諦めかけたエバルフは再び落ちている剣を持ち立ち上がった。 「…?」 「悪魔祓いを装って人々を殺める貴様ら邪道を…俺は…許…さない!」 その瞬間、エバルフの体の周りから黒い魔力のオーラが放たれた。 そのオーラと共に体が黒く変色し、右片方の目だけ黒から赤に変わった。 「何あれ!?あの人の体が黒く…」 後ろで見ていたミーナは当然驚いた。 その黒い姿がまるであの時のシェスカに似ていたのだ。 しかし、その姿を見て驚いたのはグレンも同じだった。 「まずい…あれは悪魔化だ。下手したらあいつ悪魔になるぞ…」 「その通り!いやー、ここまで仕上げるの本当大変だったよ。」 突然聞こえてきた声は今まで気にしてなかったエバルフのもう1人の部下のロフィスだった。 見た目は部下と同じ様に鎧と剣を持った騎士らしい姿で髪と瞳は明るい茶色の男。 ロフィスは今までグレンとエバルフに気づかれないように建物の屋根の上に隠れていた。 そしてそのまま屋根から飛び降りでグレンの前に着地し。 「初めまして、紅の悪魔祓い・グレン。そしてありがとう。あのエバルフをここまで悪魔化させるのに協力してもらって。」 優しく笑いながら感謝の言葉をするロフィス。 グレンはそれを無視して。 「お前は何者だ。魔法騎士団のやつじゃないな。」 「俺か?んー…知ってどうする気?」 ロフィスはおちょくっているのか空中に浮くと逆さになった状態でグレンの顔と向き合った。 向き合った直後に一瞬でエバルフの真横に移動した。 「空間移動…」 「そう、これはあんたと同じ転移魔法。あんたに追いつけたのは予知能力とこの空間魔法のおかげって訳だ。」 「なるほど、通りで最近俺に追いつく距離が狭まってたのか。…で、お前は何者だ?人の悪魔化を望んでるから人間ではなく悪魔なのは確かだ。…そしてそこらの悪魔とは比較にならない程の魔力だ。」 グレンが悪魔祓いになってからビビった事はこの10年間で数える程度しかない。 そのグレンが今ビビっているという事はその周りにいる部下達とミーナもビビっていた。 そしてロフィスは口を開けた。 「…いいだろう…教えてやるよ。俺は悪魔だが他の奴らとはケタが違う。なぜなら…俺はあの悲劇の国で生まれた悪魔!その名も悪魔の上の存在…獄魔(デーモン)だ!」 「獄魔…なるほど、俺の魔法をかわせたのも理解できるな。」 「まあ君ならその気になれば俺なんて普通に殺せるだろ?」 そう言いながらもロフィスは口角を吊り上げながら不敵な笑みを浮かべた。 そして悪魔化してるエバルフの肩に手をポンと置き。 「さあエバルフ。あの憎っくき悪魔祓いを殺しなさい。そうすればお前の憎しみはなくなるぞ?」 ロフィスの言葉によってエバルフは甲高い雄叫びをあげ、黒くなった腕はさらに歪さを増して人の腕の原型をとどめない形に変わっていく。 顔はさっきと同じで右片目だけ赤くてさっきと変わっていないが物凄い形相でグレンを睨みつけていた。 ー来る! そしてその一歩目が早かった。 数メートル離れてるのにも関わらず一歩目でグレンに近づき剣を縦に振るった。 グレンも大剣でそれを防ぎ回避するが予想以上の威力のため少し押され気味だった。 回避してからバックステップで距離を保ってからグレンの手から光の球体を発現させ、その球体をエバルフに向けるとそれを光線のようにして打った。 (くらえ!この光の最上級魔法は回避不可能だ!) キィィィン! しかし、エバルフはその光の光線をいとも簡単に跳ね返してしまう。 「俺の光属性の最上級魔法を…」 自分の中の最上級魔法の中で最速を誇る光魔法を見切られ、動揺を隠せないグレン。 「…許…さない…。許さないぞ…紅の悪魔祓い!」 「俺はお前に恨みを持たせるようなことをした覚えはない。」 「ふざけるな…妹を…妹を返せ!」 何を言ってる?俺はエバルフと初対面だし、ましてやあいつの妹なんて知るわけが… 「そうだエバルフ!そいつがあの時お前の妹を殺した張本人だ!遠慮せずに盛大に殺せ!」 ロフィス…どうやらこの訳のわからん自体を招いた張本人だな。 一方ミーナと倒れていた部下たちは変わり果てたエバルフを見て。 「やはりあの人は3年前の事を…このままじゃあの悪魔化とやらに…」 「くそ!…ロフィスの奴め、前々から気にくわない奴だったがまさかあいつが悪魔だったとは…」 どうやらエバルフ以外の何人かの部下はロフィスの心に気づいていたようだ。 しかし、エバルフはなぜグレンを恨むのか。 それが気になってミーナは聞いた。 「あの、すみません。」 「!?君はあいつ(グレン)の…」 「怖がらなくてもいいです。私は勝手にグレンについて来てるだけなんで。」 部下たちはミーナに声をかけられた瞬間ビビって一歩後ろに下がった。 「ああ、すまない。…で、何…かな…?」 謝っときながらまだビビってる。 私がグレンと旅してるからってグレンみたいな人と勘違いされるのは嫌だなぁ。夢の中のグレンはいい人だけど。 そんな事を思いながらミーナは部下の人達にエバルフがなぜグレンを恨むのか聞いた。 エバルフが騎士団に入った理由。妹と部下が悪魔祓いに殺された事。その悪魔祓いがグレンにそっくりな事をまとめて全部教えてもらった。 「…ということだよ。エバルフさんはそれ以来強さだけが人を守るという信念を持たれたが…」 「その信念はやがて憎しみに変わり、市民の命よりも悪魔祓いの復讐心の方が強くなった。」 「ロフィスのせいだ!あいつがエバルフさんを洗脳したんだ!チキショー!」 最後に言った部下は地面を殴りながら涙を流した。 それはただ忠誠心が強いから仕方なく泣いてるのではなく、心の底からエバルフを心配しての涙だというのがミーナに伝わった。 そしてミーナも鼻をすすり、両目から雫が頬をつたった。 「…エバルフさんは妹を失って、全てを恨みたくなる気持ち…すごく分かります…でも…でも、妹さんは…彼の復讐を望んではいないはずです!」 ミーナは涙を拭き払ってグレンとエバルフが戦ってる方を向いた。 「お嬢ちゃん…まさかあんたあの2人を…」 「止めてみせます!私は決めたんです…グレンを元の優しい人に戻すこと!そして、もう二度と悪魔の悲劇を生まないためにも…私はエバルフさんの悪魔化を止めます!」 そしてミーナはグレンとエバルフの方へ歩き出した。 「うぉぉぉぉぉぉ!!!」 剣を振りかぶりながら接近するエバルフ。 グレンは悪魔化したエバルフに苦戦を強いられていて、今の剣の一撃も大剣で打ち流してかわした。 (おいグレン!なんで本気で戦わん!?) 「お前か…こんな時に声をかけてくるな、後にしろ!」 後ろにバックステップしてる時にグレンの中にいる悪魔が周りに聞こえない声で喋りかけてきた。 (アホか!死んだら何にもなんねーだろ?さっさと黒炎使って獄魔とあの人間殺しちまえ!なんで使わねーんだ?) 「うるさい!今戦ってんのは俺だ!いちいち俺に指図すんじゃねー!」 グレンは悪魔の声を吹き払うかのように大剣を振ると風魔法の効果でエバルフに向かって斬撃が飛んだ。 しかし、その斬撃を軽く避けるとエバルフは風魔法の身体強化で速さを増しながら突っ込んできた。 グレンはどんなに苦戦を強いられても黒炎を使わないのでお互い一歩も譲らないまま攻防戦が続く。 「(くそっ!分かってる…黒炎使っちまえば余裕で殺せる…。だが…今あいつは殺しちゃいけねーような気がする!かといって、このままじゃ俺もヤバイ…どうした俺?変な気持ちを起こす前にいつもみたいにさっさとこんな奴殺しちまえよ!)」 そんな事を考えてると剣がグレンの右肩に擦り、マントが破けるとそこから血が流れていた。 その影響で身体の重心がぐらついて地面にこけてしまう。 エバルフはグレンのこけた姿を真顔で見下ろした。 「ぐっ!…」 「終わりだ…俺の妹を殺した外道の悪魔祓い。死ねっ!」 エバルフが剣を振り上げようとしたその時。 「やめてください、エバルフさん!」 剣を振りかぶった隙に走ってグレンの目の前まで行くと両手を広げてグレンを庇う姿勢を作った。 それに気づいたエバルフは振りかぶった状態のまま静止した 「邪魔するな!どうせお前も悪魔祓いの手先だろ?お前は後で殺すからそこをどけ!」 エバルフの左目と赤い右目がミーナを一直線に見つめた。 怖い、…足が震えているのが自分でも感じる…でも…私はそれでも… ミーナは怖くて震えながらも力を振り絞って言い放った。 「もう、やめて下さい!あなたは…あなたの目指していた騎士団は…復讐を果たすだけの…そんなものだったんですか?」 「何ぃ…?」 エバルフの殺気がきつくなり、剣を握る力が強くなった。 「バカがミーナ!あいつの怒りを高めてどうすんだよ。そいつの目的は俺だけだ。お前はとっとと退が…」 グレンがいち早くエバルフの殺気に気づき、ミーナに退がれと言おうとした時にはエバルフは剣を振り下ろしかけていた。 「くっ…!」 「あぁ、あの子殺され…」 部下達もグレンもダメだと思った時、ミーナは一言。 「あなたの妹はそんな姿を望んではいないはずです。」 その一言でエバルフの剣がミーナの頭の上でピタッと止まった。 「バカな…奇跡だ…」 多分この場にいるほとんどがびっくりしたはずだ。 あのロフィスでさえ驚きのあまり開いた口が閉じれなかった。 「俺の…妹…」 「あなたの妹は3年前に殺された。しかもグレンにそっくりな悪魔祓いに。」 「…!?」 「…なんだと?」 その言葉にグレンも驚いたがミーナはそれでも話す事を止めずに。 「確かにそんな辛いことがあれば誰だって辛くてその殺した奴に復讐したくなる気持ちも…私には分かります。」 「ふざけるな!お前なんかに何が分か…」 「分かるよ。私も同じように学校の親友を悪魔に殺されたから。」 「…くっ!お前は所詮友達だろーが!俺は家族を失った!たった1人の…残された1人の家族を奪われたんだ!こんな気持ち…お前なんかに…」 「所詮って何よ?」 ミーナの表情は強面に変わり、声が低くなった。 「大切な人は家族以外にもあるはずよ。あなたたち騎士団は市民の人の事も所詮赤の他人って言うの?」 その言葉にエバルフは何も返せなかった。いや、今の自分の事を考えると返す言葉なんてなかった。 そしてエバルフは正気を取り戻したのか次第に赤くなった右目が戻っていき黒くなった体も元に戻っていった。 「何が全ての人々を守るよ…何が騎士団は市民のヒーローよ。簡単に闇に堕ちてしまうような弱いヒーローなんていない方がいい!今のあなたは騎士団に相応しくないって昔のあなたならすぐ気づけたはずよ!」 「……!?」 「…今ならまだ間に合うはずです。もう、復讐の為に生きるのはやめて下さい。昔の、純粋に市民を守ろうとするエバルフさんに戻って下さい。天国にいる妹さんはそれを望んでるはずよ。」 ミーナは最後に優しくそう言った。 エバルフはようやく自分の愚かさに気づいたのか上を向きながら号泣し、そのまま座り込んだ。その後、城は今回の魔導兵器との戦いで侍達が寝泊まりする事になる。その為、グレン達は一旦戦争の被害を受けていないカイルの自宅へと移動した。人数は多いが、グロードとグレン、ネルと空間移動出来る者が3人も居た為、特に問題なく転移出来た。初めてカイルの家に来たグレンは一言。「…デカいな。」「反応薄っ!」グレンのあまりにも薄いリアクションに思わずライクが突っ込みを入れた。「ライクは初めてカイルの家に来た時、ずっと圧倒されてたもんね。」「されてねえよ!てか一々そんな事言わなくて良いんだよニケル!」2人はいつもの言い合いをしてるとグレンがボソリと。「家はデカいのにな…。」その言葉に今度はカイルが聞き逃さなかった。「家は?デカいのに…何だよ?」カイルはグレンに詰め寄るも、身長差がある為グレンの顔を見上げながら言った。額には青筋が浮かんでいる。「…いや、何でもねえ。」「あるだろ!どうせ家はデカいけど俺は小さいとか思ってんだろ!?」「…言ってねえ。」「言ってる様なもんだ!それは!」低身長がコンプレックスのカイルは、身長に関する事を言われると過剰に反応してしまう。頭を掻きながら「めんどくせぇ。」と心の中で思うグレン。そんな中、更に火に油を注ぐ発言をする者が居た。「あ、やっぱりカイルはチビで合ってたんだ。僕だけがそう思ってたのかと思ったよ。」ネルは悪気なくチビ発言をしてしまい、その場に居る全員が思わず「あっ」と発してしまう。カイルの前では絶対に言わないと必死に我慢していたのが、ネルが言ったせいで思わず出てしまった声に本人は感じてしまう。「合ってたとか言わなくて良いんだよネル!皆んなそうやって俺の事チビって馬鹿にするんだ!もう家に入れてやんねえからな!」全員からチビ認定された事に悲しみアピールをするカイルをエミルとミーナが慰めていた。「ほら、泣かないの。」エミルがカイルの背中を撫でながら慰める中、ミーナも同様に慰めようとするのだが。「カイル君はちっちゃくても…大っきいよ、懐が!」以前エミルの服を全額払ったカイルの懐の大きさだけを褒めるミーナ。(第30話参照)最早言わない方が良いレベルのフォローに更に落胆するカイルであった。「入るならさっさと家に案内してくれ。全員疲れてるだろ?」事の発端を作った張本人のグレンは落ち込むカイルを
ライクとニケルは城の裏側にある人気の無い場所へと移動した。 後ろから尾行していたロゼアは壁に隠れながら、ライクとニケルが話をしているのを覗き込んでいた。 …側から見れば只のストーカーにしか見えない。 壁の向こうではライクから先に声を掛けていた。 「で?どうしたんだよ。さっきも、お前一言も喋らなかったし。」 先程の会話でも、ニケルは浮かない顔をしながらグレンやグロードの話を聞いていた。 その理由は。 「…僕達とグロードさんの関係って、これからどうなるのかなと思って。」 「グロードとの関係?」 何を言ってるのか分からないライクだが、ニケルはそのまま説明を続けた。 「大恩あるグロードさんの事を、僕はずっと亡くした父親の様に思ってた。本当の父親じゃ無い事は分かってる。だけど、まるで親子みたいな今の関係性が僕は好きだったんだ。」 「けど、生き別れた本当の息子であるグレンが戻って来たら、もうそんな関係には戻れないのかなって…。」 ニケルの悩み。それは本当の息子であるグレンが戻ってきた以上、自分達はグロードの息子の代わりにはなれないという事である。 また今までの関係性も変わってしまい、もうグロードに相手にされないのでは無いかという不安もあった。 「勿論、グレンと再会出来た事は僕も嬉しいけど。…やっぱり良いな。本当の親が生きてるのって。」 月の民殲滅戦で両親を亡くしてるライクとニケル。特にニケルは子供の頃は甘えん坊であった為、親への未練はライクよりも強い。 親の居ない2人にとってグロードは父親同然。しかし、本当の父親になる事は出来ない。 そう思うとニケルは、少し寂しく感じていた。 それに対してライクは。 「ニケル…お前の言う様に、あいつは俺達の父親じゃねえし、俺達があいつの息子代わりになる事も出来ねえ。」 「……」 「でもよぉ、俺達とグロードとの関係性は何も変わらないと思うぜ。」 「…え?」 落ち込み俯いてたニケルはライクの顔を見た。 「俺もあいつの事は父親みたいに思ってたけど、どっちかと言えば師匠に近い感じだな。それに、あいつは面倒見が良くて、いつも丁寧に俺達の修行に付き合ってくれた。」 「優しい奴だからさ、例え息子が居ようと俺達との師弟関係まで変わる事はねえよ。」 「ライク…
魔導兵器ラウスを倒した事と、北の軍事兵器もグロードが破壊した事により、北の大国が今後攻撃してくる事は無いだろう。北の大国は多くの軍人と軍事兵器を失った事により、いずれ国の財政が崩れ破綻に追い込まれる事となる。戦う力を失った北の大国ウンディーネは結果的に敗戦国となり、これにより東北魔導大戦は事実上終結する事になる。しかし東の大国も無傷という訳にはいかず、今回の魔導兵器ラウスとの戦闘によって沢山の死傷者が出ていた。それだけではない。東の大国の主戦力が戦っている間、手薄になった城内にて更なる事件が起こってしまう。ノーム王の暗殺。戦いが終わった後、城内へ行くとそこは戦場と同じくらい凄惨な状況となっていた。医療班の人も殆どが殺されており、警備の者達に関しては、肉体が残っていれば運が良かったと思えるくらいバラバラに殺されていた。一体誰が実行したのかは不明。しかし、こんな事をするのは1人しか居ないとグロードは気付いていた。「…ベリエル!」見たところ胸部を刺殺(しさつ)されて殺されている様に見えるが、医療知識が豊富なグロードはノーム王の身体を少し触れただけで他の殺害方法で殺されたのだと判断する。「…内臓が全て潰されている。まるで身体の中をかき混ぜられたかの様に……許せない。」あまりにも残酷な殺し方をされている為、グロードは沸々と怒りを覚えた。この場には他にグレン、ミーナ、エミル、ライク、ニケル、フィナ、ネル、そして八握剣(やつかのつるぎ)のギンジが居た。カイルとロゼアとアルバスは意識を取り戻したが、戦いで受けたダメージが大きく、今は休んでいる。他の八握剣(やつかのつるぎ)も同様に、命に別状は無いが大掛かりな治療が必要な状態である為、カイル達同様にこの場には居なかった。ノーム王が殺されている姿を見て先に悲しんだのは、当然八握剣(やつかのつるぎ)のリーダーであるギンジであった。「ノーム王…くっ…何で、こんな事に!」ギンジは両手を握りしめ、悔しさと悲しみで顔を横に向きながら涙を流していた。王の懐刀である八握剣。そのリーダーともあろう者が他のメンバーを救えず、更には王の命さえも守る事が出来ず、ノコノコと生き残ってしまった。ーー俺のせいで…役立たずにも程がある!しかし、それに対してミーナが。「ギンジさん。自分のせいだなんて思わないで下さい。皆んな
そして更に4年後。ラウスは18歳になり、ルーファスは9歳となる。ラウスは高校3年の学年となり、全ての成績において優秀な成績を収めていた。幼い頃から教えられた事は殆ど完璧にこなすその姿を見て、いつしかラウスは神童と呼ばれ将来を期待される様になる。しかし、ラウスは魔法を仕事にする道は選ばずそのまま農作業を営み続ける道を選んだ。当然教師はラウスを説得するもキッパリと断った。自分の将来の夢よりも、ルーファスの側にずっと居る事の方が大事だったからである。こうして学生の頃はそれなりに有名だったラウスは、突如として公の場から姿を消したのだ。一方、ルーファスもラウス同様に成績が良かった。ラウスが合間を縫って勉強を教えているのもあるが、どうやらルーファスも少し教えればすぐ覚える事が出来るのだろう。「(流石は俺の弟だな。)」勉強を見ていたラウスは心の中でルーファスを誉めていた。ある日、ルーファスはこの家に元々住んでいた老夫婦の写真が飾ってある仏壇を見て質問してきた。「兄さん。この人達って、僕達とはどういう関係なの?」あの頃、まだ赤ん坊だったルーファスはこの家に元々住んでいた老夫婦の存在を知らない。「この人達はね、俺達の親みたいな人だよ。本当の親じゃ無いけど、親のいない俺達の面倒を見てくれた人だ。」亡くなった老夫婦の事をラウスは自分の親だと思っており、ラウスにとっては生きていく術を教えてくれた恩師でもあった。「そーなんだ。…じゃあ、僕達の本当のお父さんとお母さんは?」1番聞かれたく無い質問をルーファスは悪気なく聞いてくる。当然である。ルーファスは親の事を何も知らない為、本当の親が気になるのは当然の事。…そっか、あの時お婆ちゃんはこんな気持ちだったんだ。そりゃ、言いたく無いよね。ラウスはルーファスに聞かれた事により、あの時のお婆ちゃんの気持ちが少し分かった。あの時から親の事はあまり思い出さない様に生きてきたラウス。正直、あまり親の事を聞かれても何て言ったら良いのか分からなかった。只、ラウス自身が抱いてる気持ちとして言った。「…ロクでも無い人達だよ。父親は俺と母親を置いて出て行き、残された母親も親の責任を放棄して出て行った。」まだ子供に言うべき事では無いのだろうが、ついつい自分の感情任せに言ってしまったラウス。「そうなんだ。…でも僕、少し会
お母さん…何で帰って来ないんだよぉ…。俺1人でどうしたら良いの?どれだけ待っても帰って来ない母親のヒスイ。既に半日以上待っていたのだが帰って来る気配が無い。ラウス自身、半日以上何も食べていない為、空腹が限界を通り越していた。「おぎゃー!!」泣き叫ぶ弟のルーファス。生後3ヶ月の赤ん坊。お腹も空くし、オムツもしてるから替えてあげないといけない。その他にも、身体を清潔にしないといけない。…どうすれば…。ラウスは寝室で泣いているルーファスの所へ行き、様子を見た。「おぎゃー!おぎゃー!」「凄く泣いてる…こんな時、お母さんどうしてたっけ?」ラウスは普段、母親がどうやってルーファスの世話をしていたのか思い出していた。そしてヒスイが何をしていたのか思い出したラウス。「…まずは、オムツかご飯か。どっちかだけど…嫌だなぁ、オムツの匂いを嗅ぐのは…」それでも我慢してオムツの匂いを嗅ぐラウス。「…多分こっちじゃ無いか。じゃあミルク作らないと。」ラウスは台所にルーファス用のミルクが保管されている所を覚えていた為、そこに行ってミルク粉と哺乳瓶を取り出す。「えっと…先にお湯を温めるんだっけ?」初めての事でどうすれば良いか分からないラウス。しかし、取り扱い説明書があったので、それを見ながら何とか作って哺乳瓶に入れる事が出来た。「よし!後は水で冷まして…よし!」人肌まで冷まし、ラウスはそれをルーファスに飲ませる為、ベッドから起こした。「おーよしよし!ミルクだよ〜。」ヒスイが言ってた様に真似しながら、ルーファスにミルクを飲ませてあげるラウス。ルーファスは勢いよくミルクを飲んでおり、よっぽどお腹が空いていたのが見て分かる。半日、何も食べなければ大人でもお腹が空くに決まってる。「俺も何か食べないと…。」そう言ってラウスは戸棚にある非常食を取り出し、空腹を埋める為にそれらをお腹に詰め込んだ。見たところ、非常食やミルクの量から数日は持つだろうと判断した。しかし、この食料が無くなったらどうしようかと。ラウスはそれが恐怖で堪らなかった。「どうすれば…後、お金だけど。お母さんの貯金でどれだけ過ごせるのか…。」勝手にお金を使う事に抵抗感があるも、生きる為には仕方ないとヒスイが管理してる通帳を確認する。子供では見た事の無い数字に驚くラウスであったが、実際の
真っ暗な暗闇の中。1人の女性が下を向きながら何かを覗き込んで泣いていた。「…ラウス……ルーファス……どうして、こんな事に…。」その女性はヒスイであった。ここは死後の世界であり、この暗闇の空間は死後の世界へ行く前の道。死後の狭間である。ヒスイは死後の世界へは行かず、死後の狭間にある暗闇の空間で家族を見守りながら待ち続けていたのだ。そして現世を見ながら自身の息子達が戦う姿を見て涙を流していた。すると後ろから。「…2人が戦っているのか?」その声の主はヒスイの父親であり、グレンに龍技の真髄を教えた竜の民のドグマであった。後ろからドグマに言われたヒスイは、涙を流しながら振り返る。「…お父さん。」「ヒスイ。…お前も辛いのは分かるが、今の俺達には見守る事しか出来ない。」そしてヒスイの隣に座り、現世で戦うグレン(ルーファス)とラウス。2人の戦いを覗き込む。「信じるしか無い。グレン…いや、ルーファスの事を。そして、あいつの強さを。…きっとあいつが兄を救ってくれる筈だ。」ヒスイはグレン(ルーファス)が生後3ヶ月の時にこの世を去った。ドグマもヒスイが家を出てから、自分に孫が居る事も知らずに30年間虚しく過ごしてきた。しかし、その孫であるグレン(ルーファス)は偶然にもヒスイの父であるドグマと出会い、龍技の真髄を教えてくれた。運命が知らない内に引き合わせてくれたのだ。そして今、ドグマに教えられた龍技の真髄によりグレンは、魔導兵器となり殺戮の呪縛に囚われた兄ラウスを救う為に戦っている。自分の弟子であり、孫でもあるグレンをドグマは信じていた。「(グレン。お前の生き様を、今こそ見せてくれ。)」ドグマの墓前で言ったグレンの誓いに対し、心の中で返答した。信じる事しか出来ないヒスイとドグマは、ラウスとルーファスの行く末が少しでも救われる様に、両手を合わせて祈る。あの世でヒスイとドグマが見守る中、現世ではグレンとラウスの死闘が繰り広げられている。戮力体竜変(りくりょくたいりゅうへん)によって竜人化したグレンは先程とは違い、身体機能が大幅に強化される。自然魔力を体内に取り込む戮力体竜変。それにより身体に現れた竜の鱗は鋼をも上回る強度を誇る。その拳でラウスの胸部を殴る。バコォォォン!!!グレンの拳により、ラウスの硬い胸部は拳大の大きさに凹んだ。グレ
時は少し遡り、場面はミーナとイフリークの国民達に変わる。現在、彼女らはティラーデザートとは別の場所で窮地に立たされていた。大量の悪魔達が周囲を取り囲み、エミルと騎士団の人達が応戦している。それを何もできないまま只々見ているだけのミーナとイフリークの国民達。国民の中には、騎士達が守らず心臓を取られてしまう者もいた。何故、この様な事になったのか。どうしてティラーデザートから離れた場所にいるのか。現在に至るまで更に30分程、時間を遡る。シルフを目指し、猛暑の中を歩き続けるイフリークの国民達は途中で大きなクレーターを発見した。「何だ、この大きなクレーターは。隕石でも落ちたのか?」「
この時の俺はどんな人だったのか、今でも鮮明に覚えている。しかし、どうしても思い出せない事が1つある。自分の本当の名前だ。名前は悪魔祓いになったと同時に捨てたからだ。今も過去の記憶は覚えてても、自分の名前に関する記憶だけはどうしても思い出せない。覚えているのは、楽しかった日常が一夜にして地獄に変わってしまった事。そして…あの時俺を逃してくれた俺の兄の最後を、俺は今でも覚えている。11年前ーキュアリーハート。それは(癒しの心)という意味を込められた平和の国。この国は東西南北にある四大国の中心に位置している。四大国に比べて経済力があるとか、規模が特別大きいなどそういった事はなく
「月の民殲滅は確かにシルフの国王が提案し、様々な国の魔道士達を招集させて殲滅していく、というのが一般的に知られている事です。」 「はい、俺もそういう風に聞きました。」 「でも本当は違うの。シルフの国王は元々平和主義を心掛けていた心の優しい人で当時も月の民殲滅には反対していたのです。けど、あの男が来てからシルフの国王は変わりました。」 「それは、さっき言っていた思考を操る魔法か?」 フィナの口ぶりで何を言いたいのか察したグレンが口を挟んだ。 「はい。12年前に突然やって来たハイド・スペクターが原因だと思います。彼は何故なのか分かりませんが会った当初から国王に気に入られ、その日
その頃、ミーナ達はグレンとカイルが乗った馬車と離れてしまい、現在は残った人達を騎士団達は馬車の外に集めさせた。しかし、集められた一般の人達は数日前の事件から現在まで散々な目に遭っている為不満が高まっているのか騎士団の人達に文句を言っていた。「どういう事なんだよ!馬車が無くてどうやって移動するんだ!」「お前ら騎士団だろ!俺たち今物凄く困ってるの見てわかんねーのかよ!」「そうよ!私達はこれからどーなるのよ!」「何とかしろ!騎士団だろ!」口々に罵声を飛ばす一般の人達。無理もない。つい数日前までは平和に過ごしていたのだ。急にこんな事が続けば誰だって普通じゃいられなくなる。しかし、一般







